EY新日本有限責任監査法人時代にお世話になったシニアパートナー(定年退職済)の人から、非常勤役員を引き受ける際の税金や社会保険料の注意点について相談を何度か受けることが多いです。
そこで、今回は、社外役員(兼務・非常勤)の源泉徴収はどうなるのかを実務目線で解説します。
太田昌明(公認会計士・税理士)
2014年 EY新日本有限責任監査法人 入所
2021年 ニューラルグループ株式会社 入社
2022年 株式会社フォーカスチャネル取締役 就任
2024年 太田昌明公認会計士事務所 開業
2024年 太田昌明税理士事務所 開業
2024年 ARMS会計株式会社 設立
2025年 東京税理士会向島支部 幹事(役員)【税務支援対策部】
結論|社外役員(兼務・非常勤)の源泉徴収は「甲欄」にならないのが原則
最初に結論です。
社外役員(兼務)で非常勤の場合、源泉徴収は原則として「乙欄」または「報酬・料金(10.21%)」で行われます。
「甲欄」が使われることは、実務上ほぼありません。
この結論は、次の2点を正しく理解すると、自然に導かれます。
- 甲欄・乙欄・丙欄の制度趣旨
- 非常勤役員の法的な位置づけ(実態判断)
以下、順を追って解説します。
源泉徴収票と源泉徴収税額表の基本構造
源泉徴収の区分は、「役員かどうか」「常勤か非常勤か」では決まりません。
最も重要なのは、その支払先が「主たる給与の支払先かどうか」です。
源泉徴収税額表には、次の3区分があります。
| 区分 | 主な対象 | ポイント |
|---|---|---|
| 甲欄 | 主たる勤務先 | 扶養控除等申告書を提出 |
| 乙欄 | 副業・兼業先 | 扶養控除を考慮しない |
| 丙欄 | 日雇い等 | 臨時・短期の労務 |
甲欄とは|「主たる給与」の支払先だけが使える特別な区分
甲欄の位置づけ
甲欄は、その人にとっての「メインの給与」にのみ適用されます。
甲欄を使うための条件
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出している
- 年末調整を行う前提である
- 原則として1人1社のみ
実務上の注意点
社外役員や非常勤役員であっても、その会社が主たる給与支払先でなければ、甲欄は使えません。
つまり、「役員だから甲欄」「取締役だから甲欄」という理解は誤りです。
乙欄とは|副業・兼業・非常勤に適用される区分
乙欄の位置づけ
乙欄は、主たる給与以外の給与支払に適用されます。
主な対象
- 副業先からの給与
- 兼業先からの給与
- 非常勤役員に支払われる役員報酬(給与扱いの場合)
特徴
- 扶養控除等を考慮しないため、源泉税額は甲欄より高め
- 年末調整は行われない
- 確定申告で精算する前提
丙欄とは|実務ではほとんど使われない区分
丙欄の位置づけ
丙欄は、日雇い労働者など、極めて短期・臨時の雇用を想定した区分です。
実務での注意点
- 役員報酬に丙欄が使われることは、通常ありません
- 「丙欄=役員」という理解は誤り
実務で混同されやすい「丙欄」と「報酬・料金」
社外役員の源泉徴収では、丙欄よりもむしろ「報酬・料金」との違いが重要です。
給与(役員報酬)として支払う場合
- 源泉区分:乙欄
- 源泉徴収税額表(給与)を使用
- 源泉徴収票を交付
報酬・料金として支払う場合
- 源泉税率:10.21%(所得税+復興特別所得税)
- 源泉徴収票ではなく「支払調書」
- 所得区分は雑所得または事業所得
実務では、この「乙欄給与」か「報酬・料金」かの判断が最重要ポイントになります。
非常勤役員の要件と源泉徴収の考え方
ここで、非常勤役員について補足します。
非常勤役員の法的な定義はない
「非常勤役員」という言葉に、法律上の明確な定義はありません。
実務では、名称ではなく実態で判断されます。
判断の軸
- 定期的な出勤があるか
- 業務執行や指揮命令に関与しているか
- 報酬が労務の対価といえるか
これらを総合して、
- 給与(役員報酬)なのか
- 報酬・料金なのか
を判断します。
社外役員(兼務・非常勤)の源泉徴収はどうなる?
想定ケース
- 本業は別会社の会社員
- 社外取締役・社外監査役を兼務
- 月1回程度の取締役会出席
- 日常的な出勤・業務執行なし
原則的な結論
この場合、甲欄は使えません。
実務上は、次のいずれかになります。
ケース① 役員報酬(給与)として支払う(通常はこっち)
- 源泉区分:乙欄
- 年末調整なし
- 確定申告で本業給与と合算
ケース② 報酬・料金として支払う(役員に対する「給与以外」の報酬)
- 源泉税率:10.21%
- 支払調書を交付
- 雑所得または事業所得として確定申告
よくある誤解
- 「非常勤だから源泉不要」→誤り
- 「社外役員だから一律10.21%」→誤り
- 「役員=必ず給与」→誤り
会社側の実務リスクにも注意
源泉徴収の区分を誤ると、税務調査では会社側が源泉所得税の追徴対象になります。
特に注意すべき点は、以下のようなケースです。
- 乙欄で処理すべきものを甲欄にしている
- 給与なのに報酬・料金として処理している
まとめ|社外役員(非常勤)の源泉徴収はここを押さえる
- 甲欄は「主たる給与」1社のみ
- 社外役員・非常勤は原則甲欄不可
- 実務は「乙欄」または「報酬・料金10.21%」
- 非常勤かどうかは名称ではなく実態で判断
- 源泉区分の誤りは会社側のリスクになる
