起業を検討している方にとって「起業の成功率」は最も気になるテーマのひとつです。
実際の統計を見ると、起業直後は比較的高い確率で存続できる一方、5年・10年と年数が経つにつれて生き残る企業は大幅に減少していきます。
本記事では、中小企業庁などの最新データをもとに、起業の成功率と失敗率、さらに成功するための秘訣をわかりやすく解説します。
なお、起業を検討している方は、ARMS会計株式会社 / 太田昌明税理士事務所も起業支援サービス・情報提供を行っていますので、是非お問い合わせ下さい。
太田昌明(公認会計士・税理士)
2014年 EY新日本有限責任監査法人 入所
2021年 ニューラルグループ株式会社 入社
2022年 株式会社フォーカスチャネル取締役 就任
2024年 太田昌明公認会計士事務所 開業
2024年 太田昌明税理士事務所 開業
2024年 ARMS会計株式会社 設立
2025年 東京税理士会向島支部 幹事(役員)【税務支援対策部】
起業の成功率は本当に低い?最新統計データを解説
まず、日本における起業後の「生存率」を確認しましょう。
中小企業庁(2023年版中小企業白書)によれば、創業後1年の生存率は95.3%、3年後は88.1%、5年後でも81.7%に達しています。
一方で、ベンチャー企業に絞ると、5年後は15.0%、10年後は6.3%、20年後にはわずか0.3%しか残らないというデータもあり、長期的な存続は非常に厳しいのが現実です。
つまり「短期的には8割以上が生存するが、10年以上継続するのは一握り」というのが実態です。
起業が成功する人と失敗する人の違い
私はこれまで、公認会計士・税理士としての実務を通じて、IPOを目指す企業、ベンチャー企業、そして独立開業を行う事業主など、様々な起業家や組織を支援してまいりました。
私の経験上からも、統計的な数値だけでなく、起業家自身の行動や考え方にも「成功する人」と「失敗する人」の明確な違いが見られます。
失敗する人
失敗に陥りやすい起業家は、必要な資金を十分に確保できていなかったり、曖昧な事業計画で走り出してしまう傾向があります。
また、市場や顧客ニーズを調べずに参入した結果、競合との差別化ができずに撤退を余儀なくされるケースも少なくありません。
成功する人
一方で、成功している起業家はスタート段階から十分な資金的余裕を持ち、見込み客や販売ルートをあらかじめ押さえています。
さらに、自分自身やチームが持つ強みを戦略的に活かすことで、競争の中でも確固たる立ち位置を築いているのが特徴です。
結局のところ、入念な準備とリスクへの備えをどれだけ徹底できるかが、起業の明暗を分ける最大の要因だといえるでしょう。
起業年数によって変わる成功率
創業からの経過年数によって、企業の生存率は大きく変化していきます。
- 1年後:約95.3%
- 3年後:約88.1%
- 5年後:約81.7%
- 10年後:約26.1%
- 20年後:約0.3%
※中小企業庁より
このデータからわかるのは、創業直後の企業は高い割合で存続するものの、年数を重ねるごとに急速にその数が減少していくという厳しい現実です。
特に、5年を超えたあたりから淘汰のスピードが増し、10年・20年と長期にわたり事業を継続できる企業はごくわずかに限られます。
背景には、資金繰りの難しさ、競合環境の変化、経営者の世代交代や市場トレンドの移り変わりといった要因が複雑に絡み合っています。
そのため、単に「起業する」ことよりも、いかに継続し、安定的に事業を発展させられるかが起業家にとって最大の課題であるといえるでしょう。
業種・職種別にみる起業の成功率
業種ごとに起業の成功率には大きな差が見られます。
とくに飲食業界は廃業率が高いことで知られており、統計によれば開業から1年で約3割が廃業、5年を経過すると8割以上が市場から退出するといわれています。
この背景には、初期投資額が大きいこと、原材料費や人件費の変動に左右されやすいこと、さらに競合の多さから価格競争に巻き込まれやすいことが挙げられます。
短期的な集客には成功しても、継続的に利益を確保するのが難しい業種の代表格です。
一方で、ITやコンサルティングといった知識産業は、比較的初期コストが少なく、人的リソースや専門知識を武器に事業展開できるため、参入後も安定しやすい傾向があります。
例えば、ソフトウェア開発やウェブサービスは在庫リスクが少なく、拡張性が高いビジネスモデルが多いため、スケールアップにも適しています。
このように、参入障壁が低い業界ほど競争は激化しやすく、結果として廃業率が高まるというのが一般的な傾向です。
逆に、専門性やノウハウが求められる分野では、競合が限られる分、長期的に安定して事業を継続できる可能性が高まります。
起業を検討する際には、自身の強みを活かせる業界かどうかに加えて、その業界特有のリスクや収益構造を理解した上で選択することが、成功への第一歩となるでしょう。
起業の成功率を上げるためのポイント
起業を成功に導くには、次の5つの要素が欠かせません。
以下、それぞれ解説します。
事業計画の明確化(収益モデル・必要資金・リスク対策を具体化)
起業を始める際には、単に「やりたいこと」を並べるのではなく、収益モデルや必要資金、潜在的なリスクへの備えを具体的に描くことが重要です。
計画が曖昧だと、資金調達も難しく、事業運営の軸がぶれてしまいます。
投資家や金融機関にとっても、綿密な事業計画は信頼性の証となります。
資金の余裕(黒字化までの運転資金を十分に確保)
事業が黒字化するまでには一定の時間がかかるのが一般的です。
その間を乗り切るためには、運転資金を十分に確保しておくことが不可欠です。
資金不足による早期撤退は、失敗要因の中でも最も多いもののひとつです。
余裕資金を準備することで、軌道に乗るまでの試行錯誤に耐えられる環境を整えることができます。
競合が少ない分野での差別化
競争が激しい市場にそのまま飛び込むと、価格競争に巻き込まれやすくなります。
成功する起業家は、競合の少ないニッチ分野や新しい市場を狙い、独自の強みを活かして差別化を図っています。
市場の「隙間」を見つけて入り込むことが、生存率を高める一つの戦略です。
自身やチームの強みの活用
事業は一人の力だけでなく、チームの総合力に支えられて進んでいきます。
過去の経験、専門的な知識、人脈といった強みを戦略に組み込み、それを最大限に活用することが、事業の安定性を高めます。
成功している起業家の多くは、自らの得意分野を事業に直結させています。
市場や顧客の徹底調査
どれほど良いアイデアでも、顧客が存在しなければ事業は成り立ちません。
市場規模、顧客のニーズ、購買行動の傾向を徹底的に調査することで、需要に沿ったビジネスモデルを設計できます。
さらに、調査を通じて得たデータは、マーケティングや商品開発の根拠としても活用できます。
これらを実行することで、一般的には低いとされる起業の成功率を大きく引き上げることが可能です。
つまり、起業を「運に任せる」のではなく、戦略と準備によって再現性を持たせることが、長期的に事業を存続させる最大の秘訣だといえるでしょう。
起業成功者に共通する特徴
成功している起業家には、いくつかの共通点が見られます。
その核心にあるのは、徹底した準備力と、変化に適応するための柔軟性です。
まず、起業成功者は事業を始める前に入念な準備を行います。
単なるアイデア段階で動くのではなく、見込み顧客を事前に確保し、初期の販売ルートやマーケティング戦略を整えていることが特徴です。
また、自分一人では限界があることを理解しており、専門家やメンター、同業者との人脈を積極的に活用し、知見やリソースを取り込んでいる点も成功に直結しています。
さらに、自社や自分自身の強みをしっかりと把握し、それを事業に落とし込んでいる点も見逃せません。
他社が簡単に真似できない独自の付加価値を提供し、差別化を実現しているため、市場の中で埋もれずに存在感を発揮できます。
加えて、成功者は市場やトレンドの変化をいち早く察知し、事業モデルを柔軟に修正する力を持っています。
顧客ニーズや社会環境が変化する中で、計画に固執せず柔軟に戦略を切り替える姿勢が、長期的に事業を継続させる大きな要因となっています。
このように、準備力と柔軟性を兼ね備えた起業家こそが、厳しい競争環境の中でも生き残り、成長を続けていける存在なのです。
まとめ|起業の成功率を理解して堅実に準備しよう
起業の成功率は、統計的に見れば決して高いものではありません。
創業直後は多くの企業が存続しているものの、5年を超えると生存率は大きく低下し、10年、20年と継続できる企業はごく一部に限られるのが現実です。
特に、ベンチャー企業のようにリスクの高い分野では、長期的な存続率はさらに低くなります。
しかし、成功率が低いからといって、起業を悲観的にとらえる必要はありません。
事業計画の明確化、十分な資金確保、市場や顧客の徹底的な調査、自社の強みを活かした差別化、そして変化に柔軟に対応する姿勢といった要素を押さえることで、成功の確率を大きく引き上げることができます。
起業は「リスクの高い挑戦」であると同時に、「準備次第で結果を左右できる挑戦」でもあります。
数字の裏にある厳しい現実を理解したうえで、堅実に準備を進めれば、長期的に成長を続ける企業となることは十分可能です。
成功率の低さを嘆くのではなく、成功するための条件を一つずつ整えること。
これこそが、起業を成功へと導く最も確かな方法といえるでしょう。