本記事は2026年4月時点の法令等に基づく一般的な解説です。
個別事案の判断は必ず顧問税理士にご相談ください。詳細な免責事項は記事末尾に記載しています。
役員ごとに改定タイミングがバラバラでも問題ないのか
結論
各役員の改定がいずれも事業年度開始から3か月以内に行われていれば、役員ごとに改定の決議タイミングが異なっていても、原則として定期同額給与として損金算入が認められます。
条文上の根拠
まず法人税法34条1項1号(e-Gov法令検索)では、定期同額給与を「その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(定期給与)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与」と定義しています。
これを受けて、法人税法施行令69条1項1号イ(e-Gov法令検索)では、改定について「当該役員に係る定期給与の額の改定」と規定されています。つまり、判定は会社全体や役員全員でまとめて行うものではなく、役員一人ひとり(個人別)に対して行われる建付けになっています。
国税庁の質疑応答事例「定期給与の額を改定した場合の損金不算入額(定期同額給与)」においても、各役員ごとに改定前・改定後の支給額が同額であるかを判定する解説がなされています。
役員ごとに満たすべき条件
各役員について、次のすべてを満たす必要があります(法人税法施行令69条1項1号)。
| 区分 | 要件 |
|---|---|
| 改定前期間の同額性 | 事業年度開始日から「改定後の最初の支給日の前日」までの各支給時期の支給額が、その役員について同額であること |
| 改定後期間の同額性 | 「改定前の最後の支給日の翌日」から事業年度終了日までの各支給時期の支給額が、その役員について同額であること |
| 決議のタイミング | 改定の決議(株主総会・取締役会等)が、3月経過日(事業年度開始日から3か月)までに行われていること |
実務上の注意点
役員ごとに改定時期を分ける場合、以下の点に注意が必要です。
① 「通常改定」は「継続して毎年所定の時期にされるもの」であること。突発的に役員ごとの改定タイミングがバラバラとなった場合、税務調査において「所定の時期にされるもの」と言えるかについて説明を求められる可能性があります。なお、3月経過日後の改定が認められる「特別の事情」については、法人税基本通達9-2-12の2(国税庁)で「親会社の定時株主総会の終了後でなければ決議できない等の事情」が例示されているのみであり、限定的に解されます。役員ごとに改定時期が分かれることに合理的理由(就任時期の相違、機関決定のタイミングの相違など)があれば、整合的に説明できます。
② 議事録・機関決定の整備。役員ごとに異なるタイミングで改定するのであれば、それぞれの株主総会・取締役会議事録(または委任を受けた代表取締役の決定書面)を、改定時期ごとに整備・保存しておく必要があります。
③ 利益調整との誤認の回避。役員間で改定時期がバラバラであることが、決算予測を見ながら時期を調整したように見える場合、恣意性ありとして否認のリスクが高まります。
④ 同一役員について同一事業年度内に複数回の通常改定はできない。あくまで「役員ごとに別々のタイミングで1回ずつ改定する」場合の話であり、特定の役員について年度内に2回通常改定を行うことは認められません。
「月末締め・翌月20日払い」のケース|支給日のズレは法人税法上問題ないか
想定するケース
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 役員報酬の締日 | 毎月末日 |
| 役員報酬の支給日 | 翌月20日 |
| 事業年度 | 6月1日〜5月31日 |
| 改定タイミング | 8月の株主総会で、8月末締め分(=9月20日支給分)から役員報酬を改定 |
この場合、キャッシュアウト(実際の支払)ベースで見ると、6月20日・7月20日・8月20日の支給は改定前の旧額、9月20日以降の支給は改定後の新額となります。
結論
このケースは、原則として法人税法上の定期同額給与に該当し、認められます。
典型的な「通常改定」のパターンです。
「3か月以内」は決議日で判定する
法人税法施行令69条1項1号イが要求しているのは、「定期給与の額の改定」が3月経過日までにされていることであって、新報酬額の最初のキャッシュアウト(実支給)が3月以内であることではありません。
事業年度の開始日が6月1日であれば、3月経過日は9月1日となり、8月の株主総会で改定を決議していれば、この時点で「3か月以内」要件は満たされていることになります。
支給時期がズレることの取扱い
国税庁が公表する「役員給与に関するQ&A(平成20年12月/平成24年4月改訂)」のQ2「定期給与を株主総会の翌月分から増額する場合の取扱い」では、3月決算法人が6月25日の定時株主総会で改定を決議し、7月31日支給分(=期首から4か月目の支給)から新額を反映するケースについて、定期同額給与に該当することを明確に認めています。
その理由として、「役員の職務執行期間は、一般に定時株主総会の開催日から翌年の定時株主総会の開催日までの期間であると解され、定時株主総会における定期給与の額の改定は、その決議の日から開始する新たな職務執行期間に係る給与の額を決定するもの」と説明されています。
本ケースもこれと同じ構造であり、8月の株主総会で開始する新たな職務執行期間に対応する給与として、9月分(=10月20日支給分)から新額に切り替えているため、整合的に理解できます。
期間ごとの同額性の確認
定期同額給与の判定は、改定をはさんだ前後の期間ごとに「各支給時期における支給額が同額」であるかで行います(法人税法施行令69条1項1号柱書)。本ケースでは、次のとおりに整理されます(図2参照)。
| 期間 | 各支給日 | 判定 |
|---|---|---|
| 改定前期間 | 6/20、7/20、8/20 | いずれも旧額で同額 |
| 改定後期間 | 9/20、10/20、…、5/20 | いずれも新額で同額 |
この条件を満たしている限り、改定前・改定後それぞれが定期同額給与に該当します。
実務上の留意点
① 事業年度開始日の確認は必須。仮に事業年度開始が4月や5月であれば、8月の株主総会は3月経過日後となり、業績悪化改定事由(法人税法施行令69条1項1号ハ)・臨時改定事由(同号ロ)に該当しない限り、通常改定として認められません。事業年度の起算日を最優先で確認します。
② 改定の効力発生時期を議事録上で明確化する。「9月分役員報酬より改定」「2026年9月20日支給分より改定」など、どの月分(どの支給回)から改定が適用されるのかを、議事録に明記しておくのが安全です。
③ 改定前後の各支給回で日割り計算等を行わない。たとえば、改定の谷間にあたる支給回で旧額と新額の中間額を入れてしまうと、改定前期間または改定後期間の同額性が崩れ、定期同額給与の判定が揺らぎます。ある支給回から完全に切り替えるのが鉄則です。
④ 決議機関は問わないが、議事録の整備は必須。3月経過日までに行われた通常改定であれば、定時株主総会・臨時株主総会・取締役会のいずれの決議でも構いません。ただし、決議の根拠となる議事録は、税務調査での疎明資料となり得るため、確実に作成・保存しておく必要があります。
参考資料
まとめ
定期同額給与の改定は、以下の2点を押さえることが実務上のポイントとなります。
- 判定はあくまで役員ごと(個人別)に行われるため、役員間で改定時期がバラバラであっても、各役員が3月経過日までに改定されていれば原則OK
- 「3か月以内」のカウントは決議日(改定日)で行うため、新報酬額の実支給が4か月目以降にずれ込むこと自体は問題にならない
ただし、いずれも改定前後の各支給回で支給額が同額であること、議事録が適切に整備されていること、恣意性が認められないことが前提となります。
本記事の前提と免責事項
【執筆時点の法令等について】
本記事は2026年4月時点の法人税法・法人税法施行令および国税庁が公表する質疑応答事例(役員給与に関するQ&A[平成20年12月/平成24年4月改訂])に基づいて執筆しています。税制改正・通達変更等により、記載内容が将来的に変更される可能性があります。最新の情報は国税庁ウェブサイトおよび関連法令をご確認ください。
【一般論としての解説です】
本記事の内容は定期同額給与の改定実務に関する一般的な解説であり、特定の法人・取引・状況を前提としたものではありません。定期同額給与の判定は、会社の事業年度・機関設計・役員報酬規程・議事録の整備状況など、個別の事情によって結論が大きく変わり得る論点です。
【個別事案は必ず顧問税理士へ】
実際の役員報酬の改定・決議・損金算入の判断にあたっては、必ず貴社の顧問税理士または所轄税務署にご相談ください。本記事の情報のみに基づいて行われた判断・行動の結果について、当ブログでは一切の責任を負いかねます。
