決算書とは、企業の一定期間における財務情報が記載された書類です。
いわば企業の家計簿であり、主に3つの財務情報があります。
- 財政状態:どこからお金を調達して、お金をどのように使っているのかを示す。
- 経営成績:企業活動により、どれだけの利益が獲得できたのかを示す。
- キャッシュフロー:どれだけ儲かったか、お金の出入りを示す。
3つの財務情報が読めれば、企業を数値化して、その状態を客観的に正しく捉えることが可能になります。
そのため、株式投資をする上では、決算書は必ず読めるようになるべきです。
社長が言葉でどんなに良いことを言っていても、数値が伴っていなければ疑うべきです。
「●●ランキングに載っているから」「有名企業だから」は危険です。
失敗しないためには、ネットの情報やSNS等の噂を信じず、自分で情報収集するしかありません。
投資先を雰囲気で選んで失敗しないためにも、決算書は読むべきです。
しかし、決算書について次のような不安を持っている人が沢山いると思います。
- 決算書なんて読んだことが無いから不安
- 情報が多すぎて、どこから見ればよいか分からない
- 難しい単語が沢山あって分からない
でも安心してください。ポイントを掴めばそれほど難しくはありません。
プロ投資家も、決算書の全部を隅から隅まで見ているわけではなく、見るべきポイントが定まれば、誰でも読めるようになります。
私も株式投資を始めたばかりには、決算書は当然読めるものの情報量が膨大過ぎて、どこが一番ポイントなのかが上手く分かりませんでした。
しかし、証券会社、銀行、機関投資家の人たちと接する機会があった中、決算書は利用するものという感覚を持ちました。
本記事では、会計を全く知らない人でも、決算書のどこを見ればよいかが分かるように解説していきます。
なお、財務分析の手法については、次の記事で紹介しています。
関連記事:ファンダメンタルズとは?【株式投資の財務分析についても解説】
2014年 EY新日本有限責任監査法人 入所
2021年 ニューラルグループ株式会社 入社
2022年 株式会社フォーカスチャネル取締役 就任
2024年 太田昌明公認会計士事務所 開業
2024年 太田昌明税理士事務所 開業
2024年 ARMS会計株式会社 設立
そもそも決算書とは?
決算書には次のような書類があります。
- 決算短信・決算説明資料
- 計算書類・注記表
- 有価証券報告書・四半期報告書
表にすると、以下の通りです。
決算短信 決算説明資料 | 株主総会招集通知 (計算書類・注記表・事業報告) | 有価証券報告書 四半期報告書(半期報告書) | |
---|---|---|---|
所轄 | 東京証券取引所など | 法務省等 | 金融庁(関東財務局など) |
関連法規 | 上場規程 | 会社法 | 金融商品取引法 |
提出先 | 東京証券取引所など | 株主 | 関東財務局など |
提出期限 | 決算日から45日以内 (1Q~4Q) | 株主総会日の3週間前まで (電子提供措置) | 決算日から90日以内(4Q) 決算日から45日以内 (1Q~3Q) |
開示方法 | TDnet | 株主総会招集通知 | EDINET |
(上場企業は、企業のIR情報ページで閲覧可能) | |||
開示物 | 決算説明資料(1Q~4Q) 決算短信(4Q) 決算短信サマリー(4Q) 四半期決算短信(1Q~3Q) 四半期決算短信サマリー (1Q~3Q) | 事業報告(4Q) 計算書類(4Q) 注記表(4Q) | 有価証券報告書(4Q) 四半期報告書(1Q~3Q) ※2024年4月以降は廃止 半期報告書(2Q) |
会計士の 監査義務 | 無し | 有り | 有り |
速報性 | ◎ | × | × |
利用頻度 | ◎ | × | △ |
情報量 | ○ | ○ | ◎ |
初心者は、まず利用頻度が高い「決算短信」が読めるようになることが重要です。
極端な表現をすると、決算短信さえ確認すれば、他の書類を見る必要はありません。
以下、各書類についてそれぞれ解説します。
決算短信・決算説明資料
株式投資において一番見る書類です。
「決算短信・決算説明資料」と後述する「適時開示」が抑えられれば、株式投資に必要な情報は網羅できます。
決算短信・決算説明資料資料は、有価証券上場規程でルールが定められています。
日本取引所グループ:決算短信、決算説明資料の公表義務、有価証券上場規程
- 上場会社は、「事業年度若しくは四半期累計期間又は連結会計年度若しくは四半期連結累計期間に係る決算の内容が定まった場合」は、直ちにその内容を開示することが義務付けられています(上場規程第404条)
- 決算補足説明資料を作成し、説明会などにおいて投資者へ提供する場合には、当該資料の投資者への公平な情報提供に努めることが義務付けられています。
- 遅くとも決算期末後45日以内の開示義務があります
四半期ごとに、決算日から45日以内に開示しなければならない書類です。
開示スピードは、決算書の中で一番速報性があります。
一方、会計士による監査監査義務がないため、有価証券報告書・四半期報告書・計算書類等よりは信頼性に劣ります。
※ただし、日本では会計士が決算短信の数値もチェックすることが多いため、信頼性について神経質になることはないです。
各書類の情報としては、次の通りです。
- 決算短信:貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書(C/F)などの情報。その他、セグメント情報など、注記による補足情報の開示もされる。
- 決算短信サマリー:経営成績、財政状態、キャッシュフローの概況や指標。配当状況や業績予想の資料もある。
- 決算説明資料:企業が決算説明会で用いる資料であり、決算概況、主に業績ハイライト、売上高・利益推移、セグメント情報、ビジネスハイライトなどの情報
それぞれの情報については、『代表的な決算書の種類』『決算書と合わせて読むべき重要資料』で解説します。
四半期報告書制度が2024年4月から廃止されます。
しかし、決算短信は変わらず四半期ごとの開示が求められます。
計算書類・注記表
計算書類・注記表は、会社法でルールが定められています。
EY 企業会計ナビ:会社法 計算関係書類の種類・注記表
- 各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表)及びその附属明細書を作成する必要があります(会435条第2項、計規59条第1項)
- 連結計算書類は、有価証券報告書を提出する大会社に作成義務があります(会444条第3項)
1年に1回、株主総会の3週間前までに開示されます。
4Q決算の開示スピードとしては、有価証券報告書より早く、短信の次に開示されることが多いです。
会計士による監査監査義務があるため、決算短信よりは信頼性に勝ります。
しかし、実務上は短信より開示が遅れるため、見られることは少ないです。
万が一、計算書類等と決算短信の内容に大きな差異がある場合、決算短信を訂正する義務が企業にあります。
そのため、基本的に決算短信を見ておけば大丈夫です。
※日本では会計士が決算短信の数値もチェックすることが多いため、実務上、決算短信を見る人が多数です。
書類の情報としては、次の通りです。
- 計算書類:貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)などの情報
- 注記表:貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)の補足情報。その他「会計方針」や、評価損や減損に係る「会計上の見積り」などの情報
それぞれの情報については、『代表的な決算書の種類』『決算書と合わせて読むべき重要資料』で解説します。
なお、計算書類・注記表の投資情報としては決算短信と被るところが多いです。
決算短信で網羅できない内容を確認する使い方になります。
そのため、株式投資で利用する場面は少なくなります。
有価証券報告書・四半期報告書(半期報告書)
有価証券報告書・四半期報告書は金融商品取引法でルールが定められている書類です。
日本取引所グループ 用語集:有価証券報告書
- 上場会社、店頭登録会社、有価証券届出書提出会社、その他過去5年間において事業年度末日時点の株主数が1,000人以上となったことがある有価証券の発行者が、金融商品取引法(第24条)に基づき、各事業年度終了後3か月以内に内閣総理大臣への提出を義務づけられている書類
- 企業の概況、事業の状況、経理の状況等の、投資判断に資するような様々な企業情報が記載
- 金融庁がインターネットを利用して広く一般に提供するEDINET(金融庁による有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)を通じて閲覧が可能
税務研究会:金融商品取引法 第24条の4の7 四半期報告書の提出
- 金融商品取引法上の証券取引所に上場した会社は、事業年度を3か月ごとに区分した各期間の経過後、45日以内にEDINETを通じて四半期報告書を提出する必要がある(金融商品取引法24条の4の7第1項)
決算短信や計算書類と比較して、情報量が多い書類になります。
四半期報告書は決算日から45日以内に開示、有価証券報告書は決算日から90日以内に開示しなければならない書類です。
ただし、次の理由により、有価証券報告書(四半期報告書)が利用される場面は限られてきます。
- 決算短信の方が速報性があり、開示日に株価に反映される。
- 有価証券報告書が開示される頃には、その情報は遥かに過去のものとなる(次の1Q開示の方が肝心)
- 業績予想などの将来予測情報に関する説明が短信にはある
- 四半期報告書と情報がほぼ同じであり、サマリーがある短信の方が使いやすい。
- 必要な財務情報という点で、決算短信の情報で足りることが多い
※日本では会計士が決算短信の数値もチェックすることが多いため、実務上、決算短信を見る人が多数です。
書類の情報としては次の通りです。
- 財務諸表:貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書(C/F)などの情報
- 注記情報:貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)の補足情報。その他「会計方針」「セグメント情報」などの幅広い財務諸表の補足情報
それぞれの情報については、『代表的な決算書の種類』『決算書と合わせて読むべき重要資料』で解説します。
なお、2024年4月から四半期報告制度が廃止されるため、今後は1Qと3Qの開示義務が無くなります。
また、投資情報としては決算短信と被るところもあります。
よって、決算短信で網羅できない内容を確認する使い方になります。
開示頻度と速報性の観点から、株式投資で利用する場面は決算短信よりも少なくなります。
代表的な決算書の種類
決算書には次の種類があります。
- 貸借対照表(B/S)
- 損益計算書(P/L)
- 包括利益計算書(C/I)
- キャッシュフロー計算書(C/F)
- 株主資本等変動計算書(S/S)
- 注記情報(注記表)
それぞれ解説していきたいと思います。
なお、それぞれの書類の種類ごとに、掲載される決算書の種類が次の表のように定まっています。
決算書の種類 | 決算短信 | 計算書類・注記表 | 有価証券報告書 (四半期報告書) |
---|---|---|---|
貸借対照表(B/S) | ○ | ○ | ○ |
損益計算書(P/L) | ○ | ○ | ○ |
包括利益計算書(C/I) | ○ | × | ○ |
キャッシュフロー計算書(C/F) ※2Q,4Qのみ | ○ | × | ○ |
株主資本等変動計算書(S/S) ※4Qのみ | ○ | ○ | ○ |
注記情報(注記表) | ○ | ○ | ○ |
注記の情報量 | 普通 | 少し多い | 多い |
※特に重要な決算書については、表内にマーカーを付しています。
なお、計算書類・注記表には一部決算書が開示されません。
そのため、決算書を網羅するには決算短信か有価証券報告書を確認する必要があります。
貸借対照表(B/S)
貸借対照表は、決算日における企業の資産・負債・純資産の残高を表示し、決算日時点の財政状態を明らかにする決算書です。
株式投資においては、主に経営状態が安定しているか、安全性を分析するのによく使う決算書になります。
※「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」様式第五号の二
- 資産の部:会社が儲けるために投資した工場やシステム投資などの財産、将来的に資金として回収される債権や、現在保有している現金預金などがある(お金や将来お金になるもの、投資した財産)
- 負債の部:将来返済する必要のある借入金などの債務を表す。買掛金なども支払を猶予されているので、一種のお金を借りている状態になる(借りたため、将来返済のために出ていくお金)
- 純資産の部:「資産-負債」で会社の正味の財産。株主が会社に対して出資した資本金や過去から積み上げた利益を表す(会社所有者である株主の財産【配当原資】になる)。この値がマイナスになると債務超過で会社存続の危機。
損益計算書(P/L)
損益計算書は、決算期間の企業活動の成果である収益と費用を記載して利益を計算して、経営成績を明らかにする決算書です。
売上原価や販管費などコスト構造が分かり、収益性を確認することができます。
利益を出していない企業に投資する価値はないので、株式投資においては一番大事な決算書になります。
※「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」様式第六号の二
決算書において、収益と費用を発生源泉ごとに分類されます。
収益の発生源泉 | 費用の発生源泉 | 利益の種類 |
---|---|---|
売上高 (本業による収益) | 売上原価 (商品や製品、サービスの原価) | 売上総利益=売上高-原価 (本業の粗利) |
| 販売費及び一般管理費(販管費) (人件費、その他経費など) | 営業利益=売上総利益-販管費 (本業の活動で出た利益) |
営業外収益 (利息収入など、本業以外の収益) | 営業外費用 (支払利息などの本業以外の費用) | 経常利益 =営業利益+営業外収益-営業外費用 (通常の企業活動で得た利益) |
特別利益 (臨時的に発生した本業以外の収入) | 特別損失 (臨時的に発生した本業以外の費用) | 税引前当期純利益 =経常利益+特別利益-特別損失 (企業の活動全体で最終的に得た利益) |
| 法人税等 (利益に対する税金の発生) | 税引後当期純利益 =税引前当期純利益-法人税等 (配当可能となる最終的な利益) |
下記の図で、最終的に残る利益は黄色の部分であり、利益額が大きいほど儲けがあることを意味します。
損益計算書では、次のような情報を得たりして、株式投資に役立てる場面が多いです。
- 過去から黒字が続いている会社であれば安定している
- 他社との比較で優位性があるかないか
- 過去からの「売上」「利益」の成長率が大きいと、将来の成長性に期待ができる
- 利益が低い場合は、売価がおかしくないか、コスト削減の余地がないか等の将来性分析のために情報を利用する(他の情報と組み合わせて、V字回復しないかを見る)
包括利益計算書(C/I)
包括利益計算書は、株式投資で見ることは無い決算書になります。
- 包括利益とは、ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分をいいます(会計基準4項)
- 包括利益のうち当期純利益及び少数株主損益に含まれない部分を、その他の包括利益といいます(会計基準5項)
ざっくり説明すると、会社の正味の財産(純資産)の増減額を示す表であり、貸借対照表の「利益剰余金」と「その他の包括利益累計額」の増減が利益として開示されます。
※包括利益の表示に関する会計基準(包括利益の表示例)
次の要因により純資産が増減されるイメージです。
- 利益剰余金の増減は「当期純利益の増減」
- その他の包括利益累計額の増減は「金融商品等の確定していない含み損益」
キャッシュフロー計算書(C/F)
キャッシュフロー計算書は、現金及び現金同等物(※)の増減を表す決算書です。
※ 現金同等物:3か月以内の定期預金、譲渡性預金など
増減の内訳として、次の3区分に分かれています。
- 営業活動CF:本業の営業活動による現金の増減
- 投資活動CF:設備投資、資産の売却、剰余金の運用など、投資活動による現金の増減
- 財務活動CF:株主や金融機関からの資金調達・返済(配当)などによる現金の増減
※「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」様式第九号
一般的に、各区分のキャッシュフローの推移で、企業の状況を次のように判断することができます。
営業活動CF | 投資活動CF | 財務活動CF | |
---|---|---|---|
現金がプラス | 本業が好調 | 投資を控えている | 資金調達をして成長投資をしている |
現金がマイナス | 本業が不調 | 積極投資をしている | 事業が成熟して、資金の返済が進んでいる |
- C/Fにより、本業で稼いだ営業CFで投資や返済を賄えているか、資金繰りの余裕度合(安全性)を把握できる。
- 大前提として、会社の営業活動CFはプラスであることが望ましい
- 投資活動がマイナスの場合、将来の成長のために積極投資しているため、投資が成功すれば大きいリターンが望める(将来の収益性の尺度)。ただし、何に投資したか、投資が回収できそうなのかは用チェック。
- 投資活動がプラスの場合、資金繰りが悪化して資産を売却していたり、事業撤退をしていないかをチェックする。
- 財務活動CFのプラスを投資活動に回しているか。営業活動CFのマイナスを補填している場合、危険信号。
- 営業活動CFのプラスで借入金返済などを行い、健全に財務活動CFをマイナスにしているか。貸し剥がしの場合、危険信号。
成長株に投資する場合、「営業活動CFがプラス」「投資活動CFがマイナス」「財務活動CFがプラス」の企業が望ましいと言えます。
株主資本等変動計算書
貸借対照表の純資産の部の一会計期間における変動額のうち、主として、株主に帰属する部分である株主資本の各項目の変動事由を報告するために作成する開示書類です(株主資本等変動計算書 会計基準1項)
株式投資で見ることがあまり無い決算書になります。
「配当金の状況」「自己株式の取得」「増資」などのBS純資産の大きな増減を確認するのに利用します。
コーポレートアクションに紐づくので、短信サマリーや適時開示で情報を一早く拾うことが多いです。
※連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則 様式第六号
注記情報、注記表
B/S、P/L、C/I、C/F、S/Sなどの財務諸表の数値の補足説明です。
大きな金額に変動がある場合、注記が付されることが多いです。
大事な注記については、財務諸表の数値に「※」が付されて、注記情報があることを示してくれます。
財務諸表を読む上では、最初から注記を見なくて大丈夫です。
「※」が気になった箇所があったら注記を見るという流れで、注記を読みましょう。
投資意思決定に影響を与えるレベルの重要な情報は「適時開示」で開示される。
そのため、注記を頭から読むよりは企業のIRページから適時開示を確認すべき。
ただし、「セグメント情報」「継続企業の前提」については重要性が高いため、必ず確認しましょう。
セグメント情報
セグメント情報は、企業で発生する売上、利益又は損失などの財務情報を、事業単位で区切ったものです。
損益計算書分析をする際には、事業ごとに分解することで分析の精度を高めることが可能になります。
子会社を持つ企業だと、親会社と子会社とで必ずしも同じ事業を営んでいないことがあります。
例えば、典型的な例で、鉄道会社が子会社として不動産事業を行なっているケースが多いです。
その他面白そうな事例では、次のようなものがあります。
- ソニーグループがゲーム・音楽・ハードだけではなく金融事業を営んでいる
- 味の素が調味料を作るだけでなく、高性能半導体(CPU)の絶縁材に使われるABFという層間絶縁材を生産しており、全世界の主要なパソコンのほぼ100%のシェアに達している。今後の成長性に期待できる。
子会社の事業が異なるにも関わらず、連結財務諸表として1つに合算されてしまうと、投資家は企業全体の財務状況や事業ごとの収益性が分かりにくくなります。
そのため、セグメント情報として事業ごとの財務状況を開示することが会計基準で求められています。
企業の収益性をセグメントごとに見ることで、以下のように事業ごとの分析をすることが可能になります。
- 稼いでいる事業
- 成長している事業
- 成長が鈍化している或いは衰退している事業
- 赤字の事業
- 海外事業にかかる情報もあるため、海外進出の状況や成長性
成長株を見つけるのに、1つヒントになります。
継続企業の前提
継続企業の前提は、企業の倒産リスクにかかる非常に重要な情報が開示されています。
この注記が付されている企業の株は、投資を控えるのが無難です。
通常の企業であれば、継続企業の前提の記載は付されず「該当事項はありません」で終わります。
しかし、以下のような状況が現実味を帯びてくると、倒産リスクが高いということで、会計基準上で詳細な状況開示が求められます。
- 財務指標関係
-
- 売上高の著しい減少
- 継続的な営業損失の発生又は営業キャッシュ・フローのマイナス
- 重要な営業損失、経常損失又は当期純損失の計上
- 債務超過
- 財務活動関係
-
- 営業債務の返済の困難性
- 借入金の返済条項の不履行や履行の困難性
- 社債等の償還の困難性
- 営業活動関係
-
- 主要な仕入先からの与信又は取引継続の拒絶
- 重要な市場又は得意先の喪失
- その他
-
- 巨額な損害賠償金の負担の可能性
- ブランド・イメージの著しい悪化
筆者の場合、継続企業の前提に係る注記が付された企業は投資をしません。
それだけ当該注記が付された企業は、倒産リスクがかなり高いといえるためです。
決算書と合わせて読むべき重要資料
決算書と合わせて読むべき重要資料は、次のとおりです。
以下、それぞれ解説します。
決算説明資料
決算書は企業の財務状況を客観的に知るための基礎資料ですが、決算説明資料はその内容を補足し、投資家が理解しやすくするための重要な情報が含まれています。
そのため、決算説明資料は決算書と合わせて読むことで、企業の状況をより深く理解でき、投資判断に有用なものとなります。
重要な理由を整理すると、以下のとおりです。
- 補足情報や説明がある
決算書は、会社の財務状況や業績を客観的な数字で示したもので、会計基準に基づき厳格に作成されますが、投資家が理解しやすいような追加情報や背景説明が乏しい場合があります。一方で、決算説明資料には、重要なトピックや変動の要因などが図表やグラフを用いて説明され、企業の現状や将来の見通しがわかりやすくなります。 - 経営陣の意図や戦略が示されている
決算説明資料には、経営陣が考える今後の方針や戦略が記載されることが多く、企業がどのような方向に進もうとしているのかを知る手掛かりになります。これにより、投資家は数字の裏側にある経営陣の意図や考えを理解しやすくなります。 - ビジネス環境や外部要因が整理されている
多くの決算説明資料では、事業に影響を及ぼす外部環境(例えば、市場の動向、為替レート、競合状況など)やリスク要因についても説明されるため、決算書の数字の変動要因を知ることができます。これにより、投資判断に必要な広い視野での理解が可能になります。 - 業績見通しや計画が記載されている
企業によっては、決算説明資料で次年度の業績予想や計画を公開することもあります。これにより、投資家は企業の成長性やリスクを事前に予測できるため、投資判断に役立てることができます。
短信サマリー
決算短信の先頭ページに記されているのが短信サマリーになります。
サマリー情報を見れば、当期の売上、利益といった経営成績や純資産、自己資本比率などの財政状態、さらには配当金などが前期と比べてどのくらい変動したかが一目で分かります。
特に重要なのは経営成績であり、売上高や利益が前期と比較してどの程度増加したのか、あるいは減少したのかをみることで、企業の成長性や健全性を確認することができます。
また、配当金が株価形成に大きな影響を与えている企業の場合は、配当金の推移も重要なチェック項目になります。
そしてこれらよりも重要なのが来期の業績予想です。来期の売上高や利益を企業自らが予想した数値が記載されています。この数値いかんによって株価が大きく変動することも多く、個人投資家にとっても重要性が高いです。
例えば、当期は売上、利益とも大きく落ち込んでいたものの、来期の予想が大きく増収増益となっていれば、株価が大きく上昇する可能性が高いと言えます。
なお、来期の業績予想については、予想そのものが困難として開示をしない企業や、幅を持たせたレンジ形式で開示している企業もあります。
適時開示
適時開示は、重要なイベントや経営判断についてリアルタイムで情報が開示されるため、投資家にとって欠かせない資料です。
そのため、適時開示を活用することで、企業の状況や戦略、リスクをより包括的に理解し、適切な投資判断が可能になります。
適時開示の具体的なメリットは、次のとおりです。
- 重要な経営判断やイベントを迅速に把握できる
適時開示は、企業が財務状況や事業に影響を及ぼす重要な出来事が発生した際に迅速に公表するものです。具体例として、業績の予想修正、大口取引の締結、新製品の発表、訴訟リスク、役員の交代、合併・買収(M&A)、新規事業の開始などが含まれます。決算書は四半期ごとの報告であるため、途中での大きな変動やリスクは把握しにくいですが、適時開示により、こうした事象をいち早く知ることができます。 - 市場や事業環境の変化への対応がわかる
適時開示では、市場や事業環境の変化に応じた企業の対応を知ることができます。たとえば、業界の変動や規制の変更、自然災害の影響などの外的要因に対して、企業がどのように対策を取ろうとしているのかが確認でき、企業の柔軟性やリスク管理能力を評価する材料になります。 - 業績に対するインパクトを理解できる
適時開示に含まれる情報は、企業の収益や財務状況に大きな影響を与える可能性が高いです。たとえば、業績予想の修正などが開示されることで、今後の収益予測やキャッシュフローへの影響を予測しやすくなります。これにより、投資家は決算書の数字だけでは把握しきれない最新の情報をもとに、企業の業績動向をより深く理解できます。
株主総会招集通知(議案)
株主総会招集通知(議案)のメリットは、次のとおりです。
- 重要な経営事項に関する決議内容を把握できる
株主総会では、取締役や監査役の選任、剰余金の配当、役員報酬、企業方針の変更など、企業の経営にとって重要な事項が議題となります。株主総会招集通知には、これらの議案とその内容が記載されており、株主は企業の意思決定プロセスや経営方針を理解し、自身の賛否を検討するための材料となります。 - 企業のガバナンス状況が確認できる
株主総会の議案には、取締役や監査役の選任などガバナンスに関する項目も含まれます。役員の選任や報酬に関する提案を確認することで、企業がどのような人物に経営を任せているのかや、ガバナンスにどの程度重きを置いているかがわかります。これは企業がどのような姿勢で経営を行っているかの指標となり、株主にとって重要な情報です。 - 配当方針や資本政策が理解できる
株主総会で議案として取り上げられる「剰余金の処分」などの項目には、配当や株主還元に関する企業の方針が示されることがあります。配当は株主にとって直接の利益となるため、配当方針や自社株買いなどの資本政策を確認することで、企業の株主還元意識や今後の方針を理解できます。これにより、株主は自分の投資に対する企業の姿勢を把握できます。 - 企業の長期戦略や経営方針が把握できる
株主総会の議案には、企業が進めようとしている中長期的な戦略や新規事業の立ち上げ、合併・買収(M&A)の方針など、将来に向けた計画が含まれることもあります。これにより、株主は企業の成長性や戦略的な方向性を把握でき、企業の将来性についての判断材料を得ることができます。
株式投資における決算書の読み方ポイント(初心者向け)
株式投資を始めるにあたり、企業の財務状況や経営成績を把握するために「決算書」を理解することは重要です。ここでは、初心者が押さえておきたい決算書のポイントについて解説します。
以下、それぞれ解説します。
重要な勘定科目
決算書には多くの勘定科目が記載されていますが、まず注目すべき項目はいくつかあります。
代表的なものとして、「売上高」「営業利益」「経常利益」「純利益」があります。売上高は企業がどれだけの売上を上げているかを示し、営業利益や経常利益は企業の本業による収益力を示す指標です。
特に純利益は、最終的な利益を表し、株主への配当にも関係します。
また、貸借対照表に記載される「自己資本比率」や「現金・預金残高」は、企業の財務健全性を示すため、これらも注目すべき勘定科目です。
企業内の過去比較
決算書を読む際には、同じ企業の過去の決算と比較することが重要です。
過去の成績と比較することで、売上や利益が順調に伸びているか、あるいは成長が停滞しているかがわかります。
また、増収や増益が続いている場合、企業が成長していると評価できる一方で、減収や減益が続くと、経営上の課題がある可能性が考えられます。
四半期ごとの推移や年度ごとのトレンドを把握することで、企業の成長性や安定性がわかり、投資判断に役立ちます。
他社との比較
同じ業界内の他社と比較することも、決算書を読む際の重要なポイントです。
例えば、ある企業の売上や利益が増加していても、同業他社がより高い成長を示している場合、その企業の競争力が低下している可能性もあります。
また、自己資本比率や利益率などの指標を他社と比較することで、業界平均に対してどの程度優位性があるか、または弱点があるかが把握できます。
こうした比較により、業界内でのポジションを客観的に見極められるようになります。
将来予算との比較
決算書の数値を企業が掲げている将来予算や目標値と比較することも大切です。
企業が発表している来期の業績予想や、中期経営計画と実際の数字を比較することで、経営陣が掲げた目標に対して実際のパフォーマンスがどうであるかを判断できます。
目標を上回っている場合は、経営が順調に進んでいると考えられ、信頼性が高まります。
一方、目標を下回っている場合には、企業の計画達成にリスクがあると見なされるため、株価への影響も考慮する必要があります。
株価に影響を与える決算書上の注目ポイント
決算書の中には、株価に大きな影響を与える項目があります。
特に、売上や利益の大幅な増減や、予想外の赤字、業績予想の下方修正などが発表されると、株価が急激に変動することがあります。
また、決算書の「特別損益」や「減損損失」などの項目も注目ポイントです。
これらは一時的な収益や損失である場合が多く、業績への影響は限定的であることもありますが、インパクトのある数値の場合、株価の変動要因となり得ます。
こうしたポイントを意識して決算書を読むことで、株価の動きを予測するためのヒントを得ることができます。
決算書の読み方で初心者からよくある疑問【Q&A】
決算書でまずどこを見るべきですか?
決算書では、まず貸借対照表と損益計算書を確認します。
貸借対照表は現金預金残高・借入金残高・純資産額といった安全性などの財務指標の確認に利用します。
損益計算書は、利益率や利益額もそうですが、過去の期間からどのくらい成長しているか、成長率を見るのに利用します。
決算書を読むと何が分かるの?
決算書を読むことで、企業の業績(売上・利益)、財務健全性(資産・負債)、キャッシュフロー(現金の流れ)、成長性、リスク管理状況が分かります。
これにより、企業の経営状況や成長見込みが把握でき、投資やビジネスの判断材料になります。
マイナスは△と▲のどちらですか?
決算書や経理上、マイナスは△と▲のどちらでも意味は変わりません。
一般的には「△」のほうが多く利用されます。
決算書の見方のポイントは何ですか?
決算書の見方のポイントは、次のとおりです。
- 損益計算書(PL):売上高・営業利益・当期純利益をチェックし、業績や収益性を確認。
- 貸借対照表(BS):資産・負債・純資産の構成を確認し、財務健全性を判断。
- キャッシュフロー計算書(CF):営業・投資・財務活動によるキャッシュの流れを見て、資金繰りや現金の安定性を評価。
- 主要財務指標:ROE、ROA、自己資本比率などで効率性や安定性を把握。
上記を総合的に見ることで、会社の経営状態や将来のリスクを理解する助けになります。
決算書とは何か?
決算書は、株主や投資家、取引先が企業の経営状態を把握し、投資や取引の判断をするための重要な資料です。
企業の財務状況や経営成績をまとめた報告書で、主に以下の3つの書類で構成されています。
- 損益計算書(PL):一定期間の売上や費用、最終的な利益を示し、企業の収益性や業績を確認します。
- 貸借対照表(BS):企業の資産、負債、純資産の構成を表し、財務健全性を評価します。
- キャッシュフロー計算書(CF):営業・投資・財務活動による現金の流れを示し、資金繰りの状態を確認します。
PLとBSの読み方は?
PLとBSの読み方は、以下のとおりです。
読み方 | |
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PL | 損益計算書 Profit and Loss statement |
BS | 貸借対照表 Balance Sheet(バランスシート) |